Sep 26, 2019

特集 | イナカのヨカに何して遊ぶ?(こしゃってマルシェ編)

田舎は、遊ぶところが少ない。

確かに、都会のように、

ふらりと出かけてお金を払えば楽しめる

「用意された」遊びが、たくさんあるわけではない。

でも、豊かな自然や広大な土地、

地域の強いつながりがある。

少しの知恵と手間、

「楽しみたい」という気持ちがあれば、

都会では経験することができない

「遊び」を生み出すことができるのだ。

 

2014年7月から春夏秋冬年4回、

鶴岡市櫛引地域で開催されている

「こしゃってマルシェ」も

そうして生まれた「遊び」の1つ。

農産物や食べもの、飲みもの、

手づくり雑貨など、

丹精込めてつくられた品々が集まる市と、

木工や料理などさまざまな

「つくる」ワークショップが人気のこのイベントは、

どのようにして始まり続いてきたのか。

オフの時間をうまく使って運営してきた

メンバーのみなさんに、話を伺った。

 

こしゃってマルシェ運営メンバーのみなさん

▼プロフィール(写真右から)

・佐藤 文博 (さとう・ふみひろ)さん  40代

事務局担当 鶴岡市(旧櫛引町)出身・鶴岡市在住/公務員

市の担当職員として関わりはじめ、いつの間にか正式メンバーに。こしゃってでは外部との調整など事務担当を任され、地域の子どもたちからはサッカーのコーチとして慕われる4児のパパ。

・須田 綾香 (すだ・あやか)さん  30代

MC担当 鶴岡出身・在住/保育士

友人から声をかけられ、立ち上げ直前にメンバーに。マルシェ開催時はアナウンスをしながら全体の進行を見つつ、個別のプログラムにも入り、場の雰囲気を盛り上げる。

・宮城 妙(みやぎ・たえ) さん  40代

代表  企画・情報発信・デザイン担当

鶴岡市(旧櫛引町)出身・在住/農家・デザイナー

代表を務めつつ、公私ともにさまざまな業務をこなすマルチプレイヤー。こしゃってマルシェ発足のきっかけとなった一言を発した張本人。

・小池 智也(こいけ・ともや) さん  20代

ワークショップ担当 鶴岡市出身・在住/機械メーカー社員

高校生ボランティアとして参加し、地元で楽しく暮らす大人たちの存在を知る。県外進学するつもりだったが、自分も同じように暮らしていきたいと考え地元就職を選択し運営メンバーに。

 

同級生との何気ないやりとりが、きっかけに。

智也 そもそも、こしゃってマルシェって「鶴岡まちづくり塾*」の活動がきっかけで始まったんですよね?

文博 そう。各地域に担当者がつくんだけど、櫛引地区は自分が担当をしていて。

 まちづくり塾が始まって何年かしたタイミングで、私がUターンで東京から戻ってきたんだ。

文博 同級生だから、妙さんが帰ってきたことは友だちを通じて知っていて。ぼんやりと、まちづくり塾に参加してほしいなと思っていたら、「マルシェに出たがっている」っていうことを、これまた友だちづてに聞いて。

 すでにあるマルシェに出たい、くらいの気持ちだったんだけど、「できるよ、やろう」って熱く語られて「え? できるの?」って。

綾香 そういうときの文博さんの勢いはすごいよね。

(佐藤 文博さん)

文博 それで、まちづくり塾の活動としてやってみようという話になったと。

智也 そこから1回目まで、どれくらい時間がかかったんでしたっけ?

 企画を詰めていくのと、テーブルとか必要なものをつくるので、大体1年くらいかな。

文博 ノウハウがまったくないから、県内の他地域でやっているマルシェを見に行ったりもしながら、ほぼ毎週集まって少しずつコンセプトを固めていって。

 コンセプト考えるのは、本当に大変だったよね。いろいろ考える中で、それまでやってきた婚活イベントや、活動が始まりかけていた木工も含め、「こしゃってプロジェクト」という形にすることに決めたんだよね。

文博 あとは資金。荘内銀行の補助金に応募したり、クラウドファンディングをやったりしてなんとか集めてね。

 コンセプトと資金、両方に目処が立ったことで、実質的な活動が動き始めた感じだよね。

智也 ワークショップの講師とか、地域の方々にはそこから声がけした感じですか?

 そうだね。お願いすれば快く引き受けてくれる方が多いんだけど、普段人に教えたりする機会がない人は、やっぱり少し難しく考えてしまっていたみたい。

(宮城 妙さん)

文博 控えめな人が多いという土地柄もあるんだろうけど。

綾香 その辺は、当日のサポートをスムーズにするために、企画段階からスタッフが入って一緒に考えたりとかして。

文博 みなさん「心配な部分もあったけど、やってみたらおもしろかった」と言ってくれてるよね。

 

* 鶴岡まちづくり塾

若い世代の市民と市職員が、鶴岡、藤島、羽黒、櫛引、朝日、温海のグループに分かれて活動する、鶴岡市主催のまちづくり事業。

 

「ちょうどいい」がようやく見えてきた。

智也 企画とか運営の面で、変わってきた部分ってあります?

 今年の春のマルシェで思ったのは、いい感じに力が抜けて自分たちも楽しめてるなってこと。

綾香 最初はワークショップ1つにもすごく時間をかけていて、なんかやけに力が入っていたよね。

文博 やっぱり立ち上げのときって、「よし、やるぞ!」って力が入っちゃう。でも、それで息切れしちゃって続かないってのはよくある話で。マルシェ始めてから、結婚したり、子どもが生まれたり、メンバーそれぞれに状況が変わってきていて、それに合わせてやり方も変化させてこれたのは、すごくよかったよね。

綾香 変えざるを得なかった、とも言えるけどね。あとは、こしゃっての雰囲気をわかっているお客さんや出店者さんが増えてきたのも大きいと思う。私たちの運営と、みなさんの楽しみ方がいいバランスになってきているのは感じるかな。

(須田 綾香さん)

 続けていくことは大切にしたいねっていうのは、当初からの共通の想いで。一時期、続けるために力を抜き過ぎちゃってコンセプトから外れかけたり、失敗したこともあったんだけど、そういうことも経験できて、ようやくちょうどいい状態がわかってきた感じかな。まだ、狙ってその状態にする力加減はつかめていないけど。

智也 やり切れるボリュームなのかはもちろん、スキルも揃っていないとコンセプトを形にし続けるのは難しいですよね。

綾香 それぞれに得意なことが違って、互いに尊重し合えているところは強みかな。

 不思議といいバランスが取れてるよね。

文博 妙さん、同級生だけど当時特別仲がよかったわけでもなかったし、確かに不思議なバランスかもね。

綾香 ことあるごとに、遠慮せずに本音でぶつかってこれたのは結構大きい気がする。

文博 そういう経験から生まれる信頼感みたいなものは、みんな持っているんだと思う。

智也 高校生のときはボランティアとして、当日のお手伝いだけでしたけど、当時からこしゃっての雰囲気が好きでした。すごく気さくだし、いい意味で頼りにされている感じがあって。互いに信頼し合い、それぞれが自分のできることをきちんとやる、その積み重ねから生まれた雰囲気なんでしょうね。

綾香 智也くんと私は櫛引出身ではないわけだけど、やっぱりこしゃってに関わるまでは、櫛引との接点はあまりなかったよね?

智也 櫛引の高校に通っていたので、いろいろと地域との関わりはありましたが、櫛引のことを深く知り、おもしろいと感じられるようになったのはこしゃってのおかげかなと思っています。

(小池 智也さん)

綾香 私は地元が大好きで、進学も就職も必ず県内でと考えていたけど、それでもこしゃってに関わるまでは櫛引のことを全然知らなかったんだよね。

文博 生まれ育った場所ではあるけど、絶対こんな何もないところ出てってやると思ってたよね?

 思ってた。東京でしばらく暮らして帰ってきて、庄内には食べものや自然はもちろん、住んでいる人も含め魅力がたくさんあることに気がついて、知ろうとしていなかっただけだってことを痛感したよね。だからこそ、地域の魅力を感じられるマルシェをやろうと思ったわけだし、私たちが提供する体験が来てくれる人たち、特に次の世代にとって、地域を好きになるきっかけになればいいなと思ってる。

 

地域のいろんな世代が、自然と集まる「場」であり続けたい。

智也 今後こしゃってでやっていきたいこと、みなさんは何かありますか?

文博 じゃあまず智也くんから。

智也 お客さんとしては少ない世代、具体的には中高生とか20代前半とかにもっと来てほしいなと思っていて。例えば体を動かすようなワークショップとか、その世代が好きそうなことをやってみたいと考えています。

 もっと小さな子ども向けのイベントはあっても、その世代向けのものってほとんどないからいいかも。

文博 よし、やろう。決まり。次のマルシェでやろう。

綾香 私は、今までもやってきたけど、高校生たちにもっと出店してほしいなと思っていて。母校の庄内農業高校もそうだけど、おもしろい取り組みをしているのに知られていない高校って結構あるから、それよりも下の世代に知ってもらえれば、高校選びの参考にもなる気がしていて。

 智也くんがやりたいことと、相性もいいしね。

文博 やろう。それもやろう。

智也 で、文博さんは?

文博 まあとにかく続けていくことかな。それ自体意味があることだし、何よりこしゃってマルシェが好きだから。この先、もっともっと楽しいことが待っているだろうしね。

 家族とか友だちとか地域の人とか、広い範囲じゃなくてもいいから、この地域で暮らす楽しさとか、誇りとか、そういうことを一方的に伝えるんじゃなくて、互いに交換していく。定期的にマルシェという場を開き続けていくことで、鶴岡が本当に豊かな地域になっていくといいよね。