Mar 3, 2021

好奇心の赴くままに、 強くしなやかに働く。

NPO法人 パートナーシップオフィス/カミトキデザイン
大谷 明(おおたに・あきら)さん

遊佐町出身/酒田市在住 30代

▼高校卒業後の歩み

・1年目〜
大学進学を機に新潟市へ。工学部で機械工学を学びながら、趣味でペーパークラフトを始める。

・3年目〜
進路に悩んだ末、大学を辞めUターン。NPO法人パートナーシップオフィスに就職。

・11年目〜
オリジナルのペーパークラフトがキットとして製品化され、販売され始める。

 酒田市を拠点とする、NPO法人パートーナーシップオフィス。主なミッションは、海ゴミから環境問題を考え・解決する輪を広げていくこと。大谷明さんがここで働き始めたのはちょうど10年前、自分が何をしたいのかに迷い、卒業を待たずに進学先の新潟から庄内に戻ってきたときだった。「とにかく生活費を稼がないといけないと思い、誘われるままに就職した」と当時を振り返るが、最近は「就くべきして就いた」と思えるようになってきたそうだ。「生まれ育った遊佐町では、小さな頃から海や川でたくさん遊んできました。それと、小学校の卒業文集に『自然環境のためになるものづくりっておもしろい』と書いていたのを最近見つけて。工作が好きなことは当時から自覚していたんですが、環境への関心も日常的に豊かな自然と触れ合うことで自ずと育まれてきたんでしょうね」。

多角的にアプローチし、 みんなで解決に向かう。

 海ゴミを軸に展開されるさまざまな事業には「啓発」と「調査」という2つの軸がある。前者は、海岸の清掃やワークショップなどを通じ、子どもから大人までたくさんの人に海ゴミの現状から環境問題を考えてもらうことが目的だ。「『うちのクラスは、給食でプラスチックのストローを使うのをやめました』とか、『楽しかったから友だちも連れてきたよ』とか、参加者の行動が変わり、その輪が広がっていくのがとても嬉しいですね」。ハイブリッドカーの普及やレジ袋の有料化など、社会的に環境問題への関心が高まってきている一方で、関心が薄く情報が届きにくい人も一定数いるという。どうすればアプローチできるのか、あれこれ考えたどり着いたのが、子ども向けの万華鏡づくりのワークショップだ。「海岸で拾ったマイクロプラスチックやシーグラス、貝殻などを使って万華鏡をつくってもらい、その後に環境問題の話をするんですが、これがなかなか好評で。子どもたちが楽しめる内容なので、環境問題に関心が薄い保護者の方も参加させやすいんでしょう。で、やっぱり子どもたちは自分がつくったものを親に見てほしいじゃないですか。万華鏡が、親子で環境の話をするきっかけになるんですよね。そうやって少しずつ、関心を持ってもらえればいいなと思っています」。

 事業のもう1つの軸である「調査」、一番のおもしろさはさまざまな専門家と一緒に仕事ができることだという。近年、心理学の研究者と協働した調査も「すごくおもしろかった」ものの1つだ。「ポイ捨てをする人の心理を研究している先生と一緒に川ゴミの調査を行いました。川を通って海岸に流れ着くゴミも多いので、川ゴミの調査は海ゴミの対策を考える上でとても重要なんです。川の中や川岸だけでなく、近くの公園のポイ捨てゴミも分類集計し原因を特定する調査だったんですが、分類結果がなかなかおもしろくて。同じ銘柄のコーヒーの空き缶とか、同じコンビニの袋とか、極端に多いゴミがいくつかあったんです。そこには、『ポイ捨てゴミの総量に対して、捨てている人や捨てられる地点は意外と少ない』という仮説が立てられますよね。そうして原因者を特定していき、ポイ捨てしてしまう理由を心理学的アプローチで紐解いていくのは、本当におもしろい経験でしたね」。

 いつ行ってもきれいな海岸。その最終目標を達成するために、「まずは山形県民全員が、海好きになってくれることを目指したい」と大谷さんは言う。「きれいな海であってほしいという気持ちは、やっぱり好きだから生まれるものだと思うんです。特に、海が遠い内陸の方は親しみが生まれにくいと思うので、万華鏡づくりのワークショップなど、楽しく海に興味を持ってもらえる機会を増やしていきたいですね」。

興味を突き詰めた先に、見えてくる道もある。

 大谷さんにはもう1つ、ペーパークラフト作家という顔がある。子どもの頃につくっていたのを思い出し、学生時代に再びつくり始めたところ、ハマってしまったのだという。「最初は他の人が設計したキットをつくっていたんですが、どうしても形にしたいものがキット化されていなくて。じゃあ自分でつくってみようとオリジナル作品をつくり始めたんです」。バイクや車から鳥、魚、ウミウシまで、紙を使ってさまざまな作品を生み出してきた大谷さん。造形としてのクオリティの高さはもちろん、展開図とつくり方をセットにしてweb上で公開し、誰もが再現可能な状態にまでするというこだわりようだ。そんなペーパークラフトへの想いを、次なるステージへ進ませる出来事が起こったのは3年ほど前のこと。「ある日突然、東京のペーパークラフト製品の企画会社から連絡があったんです。製品化しませんかって」。きっかけとなったのは最初に形にしたオリジナル作品、ホンダスーパーカブの初代モデルC100。その後製作したモトコンポなど、いくつかの作品はホンダの公認製品として販売されている。

 「本当に、誰が見てくれているかわからないもんですね」と少し照れ臭そうに笑う大谷さん。作品公開用のwebサイトを独学で構築した経験を活かし、最近は仕事としてweb構築を行うこともあるそうだ。趣味として始めたペーパークラフトから、さらなる仕事が生まれているのだ。「職業を複数持つことがあたりまえの時代が来ても全然おかしくないと思うし、何かあったときにはその方が強いですよね。私自身、NPOで企画していたイベントがコロナウイルスの影響で軒並み中止になりましたが、収入源が複数あったおかげで収入が大きく変動することはありませんでしたから。これからますます、何が仕事になるかわからない社会になると思います。いろんなことに興味を持ち、『これだ』と思うものは突き詰めてやり続ける。そして社会に発信する。そこから見えてくる進路もあるんじゃないですかね」。

 自然環境とものづくり。かつて卒業文集に記した2つの言葉は、大谷さんの歩みを支える柱として、形を変えながら今なお成長し続けている。

NPO法人 パートナーシップオフィス

ちまちま紙いぢり(ペーパークラフト紹介サイト)