Nov 28, 2018

特集|イナカのイナカに暮らす理由

市の中心部から車で40分ほど、

開湯千年の名湯「あつみ温泉」と、

海あり山ありの豊かな自然環境で知られる

鶴岡市温海(あつみ)地域。

生まれ育ったまちをより魅力ある場所にしようと、

さまざまなアプローチで

温海のまちづくりに取り組む大人たちを紹介します。

 

 

座談会|地元に真の豊かさを。

旅館、酒屋、自然体験、カフェ。自ら地元に帰ることを選び、それぞれのフィールドで働きながら「あつみ魅力づくり推進委員会・若手の会」のメンバーとしてまちづくりに取り組む4名に、ご自身について、地域について、語り合っていただきました。

 

(写真右から)

佐藤 鉄平(さとう てっぺい)さん
Uターン12年目|あつみ温泉たちばなや 専務取締役

 

佐藤 康幸(さとう やすゆき)さん
Uターン8年目|あつみ温泉萬来屋酒店 4代目

 

冨樫 繁朋(とがし しげとも)さん
Uターン3年目| NPO法人自然体験温海コーディネット 事務局長

 

榎本 幸作(えのもと こうさく)さん
Uターン22年目|ローズガーデンカフェ 代表

 

 

鉄平(以下、鉄) 今日集まっているメンバーは、全員県外での暮らしを経験している「Uターン組」という共通点があるので、改めて地元に帰って来たきっかけあたりから話をしていきたいんですが。

朋(以下、繁) 鉄平くんは、東京のホテルで働いてたんだっけ?

 そうです。学生時代は4年間新潟で過ごして、その後家業を継ぐために東京に出て専門学校で1年間旅館業について学び、1年半ホテルでベルマンとして働きました。

康幸(以下、康) やっぱり、継いでくれって言われてたの?

 いや、実は1回も言われたことがなくて。今思えば、それが継がせるための作戦だったのかなと思ったりもするんですけど。でも、新潟に出た時点で、継ぐことをはっきりと意識していたわけではないんですが、いずれ帰って来たいとは思っていましたね。

幸作(以下、幸) 康幸くんは、継いでくれって言われてたの?

 結構言われてましたけど、最終的には自分で酒屋を継ぐことを決めて帰ってきました。専門学校時代から17年間仙台で暮らしていたんですけど、地元で過ごした年月と同じくらい仙台で暮らしてみて、なんとなく家の仕事が気がかりになってきたんですよ。営業職として長く山形エリアを担当していて、頻繁に地元に戻ってきていたことも、Uターンという選択を後押しした一因かもしれません。

(桜を観に訪れた人で賑わう温泉街)

 幸作さんは何がきっかけだったんですか?

幸 華やかな暮らしがしたい一心で、高校卒業してすぐに東京に出て10年くらい働いていたんだけど、ずっと住む場所ではないなと思ったんだよね。もちろん楽しいことはたくさん経験できたけど。あとは、親の老後が心配だったというのはあるかな。継がないといけない家業があったわけではないけど、「家」が理由になっているという点では2人と近いかもしれないね。

 繁朋くんは、やっぱ祭りが大きいんでしょ?

 そうですね。地元が嫌で大学進学を機に東京に出てそのまま就職したんですけど、鼠ヶ関の祭りがあるときだけは休みを取って帰ってきていて。毎年のように祭りのために帰ってきていたら、自然と地元への愛着が強まっていって、外で働きながら帰る機会をうかがっていたという感じです。

 みんなそれぞれに理由があって帰ってきて、今はこうして一緒にまちづくりの活動をしているわけなんですけど、「まちを盛り上げていこう」と考えるようになったきっかけって何かありますか?

 家の仕事を通じてっていうところが大きいかな。温泉街の酒屋ってやっぱり旅館さんとのお取り引きが多いから、仕事がまちの盛り上がりに直結している感覚があって。一緒にこのまちを盛り上げていくんだ、っていう気持ちは強いよね。

 僕も仕事かな。帰ってきてから旅館に勤めたり、飲食店を運営したりする中で、観光を軸にいろんな業種の人たちが関わり合ってまちが動いていることを実感して、まち全体を盛り上げていく必要性を感じたよね。

(浴衣を着てのまち歩きは女性に大人気)

 鉄平くんも旅館業だから、おそらく2人と同じように仕事を通じてということだと思うけど、そもそもこの「あつみ魅力づくり推進委員会・若手の会」って何がきっかけで始まったんだっけ?

 今年から本格始動したわけですけど、それは僕含め4人の旅館の後継ぎが中心になって動き出したことがきっかけです。ただ、活動の下地をつくってくれたのは、僕らより少し上の幸作さんたちの世代だと思います。

 温泉街の道路整備や、僕も運営に携わってきた「足湯カフェ チットモッシェ」のプロデュースを手がけられた先生をお招きして勉強会をしたりということはやってきたよね。それがきっかけで、「みんなでまちを盛り上げよう」という機運が高まったというのは間違いなくあると思う。

 ただ、本業もある中で継続的にまちづくりに力を入れるのが難しくて、なかなか活動が定着しなかった。で、また先生をお招きして勉強会をして、改めてスタートを切りたいということで、鉄平くんたちが中心になって立ち上げてくれたという感じだったよね。

 その後は知っての通り、今日集まれなかったメンバーも含め課題出しや活動内容検討のためのミーティングを定期的に行いながら、道路沿いにベンチを設置したり、花を植えたり、浴衣歩きのコースをつくってみたり、まずは観光で訪れた方々にまち歩きを楽しんでもらうための活動をやってきましたよね。やっぱり観光を軸に発展してきた地域なので、みなさんまちに人が増えることにはとても協力的だし、引き続き頑張っていきたいですね。

 温泉街で若手の会として活動しながら、康幸くん、鉄平くん、僕の3人は仕事でも温泉街がメインのフィールドなわけだけど、一方で繁朋くんは、周辺の地区とも深く関わり合いながら仕事をしているよね。それはどんなモチベーションからなんだろう?

 鼠ヶ関でのシーカヤック、山五十川歌舞伎など、うちのNPO「自然体験温海コーディネット」が「先人から受け継いだ自然や文化、社会を守り発展させ、次世代につなげていく」ことを目指し提供している体験プログラムが、周辺地区に多いということは1つありますよね。コーディネットで働き始めた当初から「できるだけたくさんの人に体験してもらいたい」という思いで取り組んできて、2018年の上期にはのべ1559人の方に体験プログラムをご利用いただくことができました。利用者数の増加に継続的に取り組んでいくことはもちろんですが、次のステップにも進みたいと考えているんです。

(海の生きものとも出会える、シーカヤック&ウミのネイチャリング)

 それはどんな?

 地区ごとの連携強化です。温海の各地区には、上の世代の方々がつくりあげてきたさまざまコンテンツがあるんですが、それぞれが別個のものとしてしか機能していないんです。単体でも集客が見込めるものも少なくないんですが、うまく連携することで、さらに多くの方々に訪れてもらうことができるはずなんですよ。

 それは、温泉街にとっても大きなメリットだし、各地区のことをよく知る繁朋くんがいなければ実現が難しいことだと思う。若手の会の活動ともうまく連携して一緒に頑張っていきたいので、どんどんリードしていってほしいな。どちらにも所属している繁朋くんには、負担をかけてしまうけど。

 いえいえ。温泉街も周辺の地区もそれぞれが頑張りつつ、連携を強めていけるといいですよね。

 コーディネットの体験プログラムは、観光などで来られる外部の方だけでなく、地元の方向けにも提供しているんですよね。

 住む場所に関わらず常時受けつけていることはもちろん、年2回地元の方向けに、リーズナブルな価格で体験していただけるイベントを開催しているね。他にも、地域資源を使った小学生向けのアートプログラムやワークショップ、中学生向けの地域学習などにも取り組んでいるよ。そういう体験をすることで、次の世代の中に地元を愛する気持ちが生まれていくといいよね。

(山五十川歌舞伎隈取り体験は、海外からの観光客にも人気だ)

 たとえそのときはよさが伝わらなくても、体験してもらうことの意味は大きいですよね。将来的に、地元に暮らしたいと思って定住・Uターンするきっかけにもなるだろうし。

 そう。僕にとっての鼠ヶ関の祭りみたいにね。行事や風景、人、食べ物など、地元らしさを感じてホッとできるものがあることが豊かさだと思っていて。温海が豊かな地域であり続けるためにも、地元の方向けに地域のよさを発信することは大切だなって。さらに言うと、グローバル化していく未来においても、ローカルを語れることが求められるんじゃないかと最近よく思うんだよね。

 それ、気になるなあ。

 グローバル化のおもしろさの1つって、それぞれに違うものを持った人たちが混ざり合うところにあると思うんですけど、違いを生み出す大きな要因って生まれ育ってきた環境なんですよ。だから、故郷について掘り下げていくことは、より自分の特性を際立たせることで、そういう人こそがグローバルな社会でおもしろいと思われる人、活躍する人になれるんじゃないかって。そう思っているんです。

 その視点はなかったなあ。おもしろいね。

 うん。確かにおもしろい。自分らが楽しんでまちづくりに取り組む姿を見せることが、地元を愛する人を増やすだけじゃなく、世界で活躍できる人を育てるって、ますます頑張らないとね。

 

これから社会に出るみなさんへ

[鉄平さん]
仕事でもプライベートでもいいので、好きなことやおもしろいと思えることを見つけて大切にし続けてほしいです。

[康幸さん]
人とのつながりを大切にして、互いに助け合い、刺激し合い、ともに成長していけるような仲間を増やしていってほしいです。

[繁朋さん]
「グローバル」に活躍する人になるためにも、自分が生まれ育った「ローカル」をしっかり見つめてほしいです。

[幸作さん]
没頭できるほど好きなことを仕事にしてほしいです。好きなことを追求することが、結果的に社会のためになると思うので。