Mar 27, 2018

出会いを大切に育て、自分らしく農業を楽しむ。

 

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(左:スタッフの加藤綾さん、中央:高橋紀子さん、右:スタッフの澤口圭江さん)

はらぺこファーム 代表

高橋 紀子

 

▼高校卒業後の歩み

《1年目~》

農学部に進学。北海道の大学で4年間を過ごす。

 

《5年目~》

将来の活路を見出すきっかけとなったラズベリーの栽培を学ぶため、大学卒業後に長野へ。

 

《6年目~》

実家へ戻り、米づくりを手伝いながら手探りでラズベリーの栽培を開始。

 

《8年目~》

加工施設を建て、ジャムの製造を本格的に開始。地域の人たちと連携した加工品開発、期間限定の観光農園の運営など、自分らしく農業を楽しみつつ、2児の母として忙しい日々を送っている。

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ご両親や夫・直之さんとともに米づくりをしながら、「はらぺこファーム」代表としてラズベリーを栽培し、ジャムなどの加工品製造や観光農園の運営を行う高橋紀子さん。ここ庄内では珍しいラズベリーを育てることにしたきっかけは、学生時代のある経験からだという。

「自分が長女で男兄弟もいなかったので、家業を継ぐつもりで農学部に進学したんですが、友人たちが就職活動しているのを見てすごく不安な気持ちになったんです。『自分がやりたい農業って何だろう?』って」。自分の心と向き合い思い悩み、もがき続けること半年。食事が喉を通らなくなり、人に会うことも難しくなっていた高橋さんを救ったのが、ラズベリーだった。

「ふと、実習先に自生していたラズベリーのことを思い出したんです。妙に気になって調べてみたら、当時国内には産地と呼べる産地がなくて、これはチャンスかもしれないと思いましたね」。その後、長野県に生産者がいることを突き止め、在学中に調査に出かけた高橋さん。ラズベリーについて学びを深めるため、卒業後同県の農業大学校へと進んだ。学校の実習先にラズベリー農家がいなかったが、校長に直談判して授業の一環として通わせてもらい、休みの日にはジャム屋さんの工房に通い、つくり方を学ばせてもらっていたという。「自分にはこれしかないんだと思い、とにかく必死にやりました。ありがたいことに、当時お世話になった農家さんやジャム屋さんには今でも困ったことがあったら相談させてもらっています」。

 

 

一大決心で、さまざまなことをマイナスからプラスに。

 

1年間の修行を終え、40本の苗木とともに実家に戻った高橋さんは、早速ラズベリーの栽培を開始する。手探りながらどうにか収穫へと漕ぎつけたが、待っていたのは「日持ちがしない」という問題だった。販路を探す間もなく、収穫してはただ冷凍する日々が続き、ついにはお金を払って外に冷凍庫を借りるまでになってしまった。この状況を打開すべく、ジャムづくりを本格始動させることに決めた高橋さん。自宅の台所では設備的に不十分だったため、加工施設建設に踏み切った。金銭的な負担は決して小さくなかったが、この選択が高橋さんに大きなプラスをもたらすことになる。「施設のことを知った近所の農家さんが、『なんとかできないか?』と出荷できなかった野菜や果物を持って来てくださるようになったんです。どうすれば1番おいしさを引き出せるか、それぞれの作物と向き合ううちにジャムづくりがすごく楽しくなってきて。生のままだとあまり注目されない作物も、ジャムにすることで価値を高めることができる。試行錯誤しながらマイナスをプラスに転換していくのが、すごくおもしろいんですよね」。

 

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ラズベリーが人をつなぎ、生み出す楽しみを教えてくれた。

 

子どもたちによる職業体験、他業種との連携など、ラズベリーを通じたつながりは増え続けているという。「パン屋さんとフルーツサンドつくったり、酒屋さんとリキュールつくったり、産直の方とジェラートやシャーベットつくったりもしています。『やろうやろう』っていう感じですぐにかたちにできるのは、小さな町ならではだと思いますね」。自分から動いておもしろいことを生み出していく。これこそが、田舎の暮らしの楽しさだと高橋さんは言う。「簡単に手に入る『用意された楽しみ』は確かに少ないですが、それって楽しみを生み出す余地があるということだし、自分で生み出していく方が何倍もおもしろいと思うんです。視点を変えて探してみると、おもしろい人や場所も少なくないですしね。ただ、庄内で暮らしていきたいと思っている人も、外から庄内を見る経験をしてほしいと思います。中にいると気がつかなかった地元のよさがいろいろと見えてきて、もっともっと庄内を楽しめるようになると思うので」。この先もラズベリーとともに、庄内をめいっぱい楽しみたい。そんな気持ちに溢れた笑顔で、高橋さんは言った。