Aug 3, 2018

庄内柿が教えてくれた、鶴岡を楽しむ農的な暮らし。

igarashidaisuke_kiji_top金三郎十八代目

五十嵐 大輔(いがらし だいすけ)さん

 

▼高校卒業後の歩み

《1年目~》進学で宮城県へ移り住む。

《3年目~》就職のため関東へ出るも、数ヶ月で鶴岡へ戻り。知人の紹介でコンビニエンスストアで働きはじめる。

《5年目~》書店員として働きはじめる。やりがいは感じていたが、忙しい毎日に疑問も。

《13年目~》ある本をきっかけに、就農を決意。柿の生産・販売を中心に、さまざまな活動に取り組む。

 

金三郎。農業を柱にいくつかの事業を営み、長きにわたり地域の暮らしを支えてきた五十嵐家の屋号だ。五十嵐大輔さんは、その18代目にあたる。現在は庄内柿を中心に、天然山菜や在来作物など地域の特色を活かした作物の生産・販売に精力的に取り組んでいるが、歴史ある農家の長男として生まれながら、卒業後すぐに就農したわけではないという。「父が兼業農家だったこともあって、継ぐことがマストではなかったというか。継げと言われたこともないし、継ぐことへの使命感みたいなものもなかったんですよね」。

 

工業高校卒業後、宮城県の工業系の学校に進学した五十嵐さん。その後就職して関東へと移り住むも、なかなかややりがいを見出せず、その夏には鶴岡に帰ってきてしまったそうだ。「やりたいことも、農業や自然への関心もなかった」と当時を振り返る。知人の紹介でコンビニエンスストアで働き店長まで務めた後、オープニングから関わった書店で8年間働くことになる。「もともと本読んだり音楽聴いたりするのは好きだったので、おもしろそうだなと思って。メインの担当はCDやDVD、楽譜などで、発注もある程度任せてもらっていたので結構楽しかったですね。東北3位の売り上げを出したこともあるんですよ」。そんな忙しくも充実した日々を送る中で出会った1冊の本が、五十嵐さんを農業の道へと歩かせることになる。

 

igarashidaisuke_kiji_grally01

 

ようやく気づけた地元の魅力を、たくさんの人に。

 

スローライフ。「大量消費」「高速型」の現代的な暮らしの対極にある、「ゆっくりとした」暮らしのことだ。文化人類学者・環境活動家の辻信一さんの本に書かれていたこの言葉を目にしたとき、ふと自分が暮らしてきた朝日の環境が思い浮かんだと五十嵐さんは言う。「家の周りにあるもの、全然活かしきれていないって。きちんと整備して、最大限活用すればこれでメシ食えるんじゃないかって。そう思って就農を決めました」。

 

1年目は庄内柿の産地である松ケ岡の農場で研修生として働き、2年目から独立した五十嵐さん。足を踏み入れてみてすぐに、庄内柿栽培の厳しさに気がつくことになる。「とにかく柿は単価が安いんです。それを理由に柿の栽培を辞めて、単価の高い作物に切り替える農家さんがものすごく多いんですよ。自分くらいの歳で柿をメインにやっている人は、ほとんどいないと思います」。どうにか柿の価値を高め消費を伸ばしたいと考えた五十嵐さん。料理人のアドバイスをきっかけに、「オラいの柿食う会」という活動をスタートさせる。メインとなるのは、柿のフルコースを提供する食事会。県内外の飲食店と連携し毎年開催しているが、首都圏ではすぐに満席になるほどの人気だという。また、食事会で提供した柿料理のレシピや歴史をまとめた冊子を発行し、情報発信にも力を入れている。

 

柿食う会を運営しながら、五十嵐さんは庄内柿のことを徹底的に調べあげてきた。その過程で土地の歴史を知り、鶴岡での暮らしについても深く考えるようになったという。「鶴岡のような田舎での暮らし、そこでの農的な暮らしって、人が生きる上でとても理にかなっていると気がついたんです。食べるものを自分でつくる、そのために体を動かす。得体のしれないものを食べないし運動不足にもならないから、健康を維持できますよね。農業をやるには、なにかと人手が必要。親世代と住めば作業効率が上がるだけでなく、待機児童も減るだろうし、孤食で子どもが寂しい思いをしたり健康を損なったりすることもなくなる。もちろんデメリットもあるだろうけど、現代社会が抱える課題解決の方法として、結構有効なんじゃないかと思っています」。

 

体験を通じて、農的な暮らしのよさを伝えていきたい。そんな想いから、自宅にある小屋を改修したり、鶏小屋を建てたりと、最近は拠点づくりに夢中だという五十嵐さん。「本業がおろそかになっては元も子もないんですが、楽しくって」と笑う。1000年以上の歴史を持つ柿には、衣食住すべて関わる可能性がある。この信念のもと、庄内柿を軸に多様に展開される五十嵐さんの農業。今後どのように進化していくのか、ぜひ注目してほしい。

24739925_1988174347876393_23903752_o