Nov 28, 2016

庄内の牛を全国へと知らしめたい

佐藤綾さん

佐藤綾さんを一言で表現するなら「攻めの農家」。おじいさんの代から遊佐町で畜産をしていましたが、お父さんは兼業農家。規模を縮小していたところを9年前に綾さんが継ぎ、牛の繁殖を中心に牧草と飼料稲の栽培を展開。瞬く間に庄内有数の牛の繁殖農家へと規模を拡大させました。

「もともと家業を継ぐ気は無かったんです。剣道を続けたかったから商業高校に入学して、高3で進路に迷いました。農家を継ぐ決意は無いまま農大に入学しましたが、2年生になったときに勤め人よりは自分でやっていく方が性に合うかなって思って、ようやく就農を決めました」。

20歳の時に約3千万円を借り入れし、もともと家にいた繁殖牛12頭からのスタート。以来毎年、返済と次の投資を繰り返し、現在は繁殖牛47頭と子牛30頭を飼育しています。「うちの牛舎のキャパシティは50頭。それを全部埋めることが就農当初の目標でした。ようやく達成できたので、これから第二段階として隣の空いた牛舎を借りて増頭していきます」。

仕事に対して「努力が必ず結果に出るので頑張れる」という佐藤さん。約50頭の牛の名前や血統、子牛の販売成績といったデータを全てパソコンで管理しています。「数値化することで効率よく入れ替えることができます。大学で教わったわけではなく、自分で色々試して、時に失敗もしながらたどり着いたやり方です」。目標に向かっての、並々ならぬ向上心が垣間見えます。

また、地域のリーダーとしての顔も持つ綾さん。牛の餌となる飼料稲を自分たちで収穫するグループを立ち上げたり、庄内一円の畜産農家が集って牛の飼育について定期的に勉強会を行う「若牛塾」を組織しています。そんな彼を慕う同世代の仲間と一緒に、飼料稲の栽培面積を年々拡大しています。

「牛を1頭飼ってても100頭飼っててもどうせ休みは無いのだから、それなら庄内で一番デカくなりたいです。畜産農家は親牛に子どもを産ませて月齢9ヶ月頃まで育てる「繁殖」と、そこから先、肉をおいしく仕上げる「肥育」に分かれています。繁殖は子牛に変なクセがつかないよう基本に忠実に育てるのが大事だけど、肥育は職人技の世界。それぞれの肥育農家が、自分の目指す風味や舌触りを出そうと日々研さんしています。数字では表せない部分があって、面白そうだけどとても難しい。ですがいずれは繁殖から肥育までを一貫して手がけて、庄内の牛は凄いということを知らしめたいですね」。豚文化の庄内において、肉牛生産を盛り上げたいという綾さん。その目標は常に明確です。

「自分が生まれ育った場所に帰ってきたいという同級生は多いですが、実際に戻ってくるとなると会社の地位や年収のことを考えて不安になると同時に、都会で得た地位や年収を手離すのは不安だという声もよく聞きます。10年、20年先に将来どこで、どんな風に生きたいのかを若いうちから真剣に考えることで、故郷にも自分の道が拓けるということを知ってほしいですね」。


_mg_5011

プロフィール

◆佐藤 綾(Ryo Sato)
1987年生まれ、遊佐町出身。酒田商業(現・酒田光陵)高等学校、山形県立農業大学校(現・農林大学校)を経て現職。